口頭試験の準備で、3義務2責務を覚え直している方も多いと思います。それでも、どこか不安が残っていないでしょうか。
不安の正体は、おそらくその先にあります。「では、あなたの業務で公益確保を意識した場面を教えてください」。こう続けられたとき、すぐに具体的な場面が出てくるかどうかです。
ここで詰まる原因の多くは、知識不足ではありません。条文と自分の業務が、まだ頭の中でつながっていないのです。この記事では、3義務2責務を「暗記」から「自分の事例」に変える準備の手順を整理します。
条文を言えるだけでは評価につながりにくい
技術者倫理は、口頭試験の評価項目の1つです。文部科学省の合否決定基準では、「技術士としての取組姿勢」の区分に、継続研さんと並んで置かれています。4つの評価項目それぞれに60%以上の基準があることは、技術士口頭試験の評価項目|4項目で何が問われ、どこで落ちるのかで整理しました。
つまり、技術者倫理は独立した評価項目として、それだけで基準を満たす必要があるということです。ほかの項目の出来で埋め合わせることを当てにはできません。
ここからはPMEの指導の中での考え方です。条文の名前を言えることは、準備の入口にすぎません。技術士に求められるのは、条文を知っていることよりも、業務の中で条文の趣旨に沿った判断ができることだからです。
条文を流暢に言えても、自分の業務の話になった途端に言葉が止まる。こうなると、知識はあっても実務で使えていないように受け取られかねません。準備の重心は、条文の暗記ではなく、自分の判断の説明に置いてください。
3義務2責務を「自分の業務の言葉」に置き換える
まずは土台として、技術士法の3義務2責務を確認しておきます。
- 信用失墜行為の禁止(第44条):技術士の信用を傷つけたり、技術士全体の不名誉となったりする行為をしない
- 技術士等の秘密保持義務(第45条):正当な理由なく、業務で知り得た秘密を漏らしたり盗用したりしない。技術士でなくなった後も続く
- 技術士等の公益確保の責務(第45条の2):公共の安全、環境の保全その他の公益を害さないよう努める
- 技術士の名称表示の場合の義務(第46条):技術士を名乗るときは、登録を受けた技術部門を明示する
- 技術士の資質向上の責務(第47条の2):知識と技能の水準を高め、資質の向上を図るよう努める
「義務」と「責務」の違いを押さえる
3つの義務は「してはならない」「しなければならない」と定められています。一方、2つの責務は「努めなければならない」という書き方です。
この違いは、語り方にも影響します。義務は「守ったかどうか」の話になりやすく、責務は「どう努めているか」の話になります。責務の2つは、日々の取り組みとして語ることを意識してください。なお資質向上の責務は、継続研さんの話と重なります。語り方は継続研さんの質問に詰まらない|CPDの語り方で解説しています。
公益確保は「業務の判断」と結びつけやすい
5つの中でも公益確保の責務は、設計や品質の判断と直接つながります。機械部門であれば、安全率の設定、設計変更の可否、不具合品の扱いなど、日常の業務の中に判断の場面があるはずです。
条文を自分の業務の言葉に置き換えると、たとえば「安全に関わる懸念を、納期より先に関係者へ伝えること」のような形になります。この置き換えができると、事例を探す作業が一気に楽になります。
技術者倫理を事例で語れるようにする3ステップ
ここからは、手を動かす準備です。業務経歴票と、手元の業務の記録を用意してください。
ステップ1:判断に迷った場面を書き出す
業務経歴を読み返し、安全・品質・コスト・納期の間で判断に迷った場面を探します。大きな事故やトラブルである必要はありません。「どちらを優先するか迷った」場面であれば十分な材料になります。
見つからないときは、「上司や顧客に、言いにくいことを言った場面」を思い出してみてください。倫理が問われる場面は、たいていそこにあります。
ステップ2:事実・判断・理由・その後の順に整理する
選んだ場面を、4つの要素で整理します。
- 事実:何が起きたのか。どんな制約があったのか
- 判断:何を選び、何をしなかったのか
- 理由:なぜそう判断したのか
- その後:結果はどうなり、次にどう生かしたのか
特に重要なのは「理由」です。判断の理由まで自分の言葉で言えることが、条文を暗記している人との差になります。
ステップ3:その判断を条文と結びつける
最後に、整理した判断がどの義務・責務に当たるのかを確認します。「この判断は公益確保の責務の考え方に沿ったものでした」と一言で結べるようにしておけば、質問の意図に正面から答えられます。
1つの事例が、公益確保と信用失墜行為の禁止の両方に関わることもあります。無理に1対1で対応させる必要はありません。
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事例を語るときに陥りやすい失敗
事例を用意しても、語り方で評価を落とすことがあります。特に次の4つに注意してください。
- 事例を美談に盛る——深掘りの質問で事実と食い違えば、信用そのものを失います
- 顧客名や製品の機密に触れる具体名を出す——秘密保持の義務を語る場面で、守秘を破っては本末転倒です
- 「倫理に反したことはありません」で終わらせる——問われているのは潔白の宣言ではなく、判断の過程です
- 他人の不正を指摘した話だけで終える——自分がどう考え、どう動いたかが語れなければ、評価の材料になりません
なかでも2つ目は見落としがちです。事例は、固有名詞を伏せても伝わる形に整えておくことをおすすめします。
まとめ
口頭試験の技術者倫理に向けた準備を整理します。
- 条文の暗記は入口にすぎない——評価の材料になるのは、業務の中での自分の判断
- 3義務2責務を自分の業務の言葉に置き換える——特に公益確保は日常の判断と結びつけやすい
- 迷った場面を、事実・判断・理由・その後で整理する——最後に条文と一言で結びつける
まずは今日、業務経歴票を手元に置き、判断に迷った場面を1つ書き出すところから始めてみてください。
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