「技術士って、結局どういう資格なんですか?」
受験を考え始めた方から、最もよく聞かれる質問です。名前は聞いたことがある。会社の先輩が持っている。取れと言われている。けれど、それが何を意味するのかは説明できない。そういう方が多いのではないでしょうか。
制度の説明だけなら、日本技術士会のサイトを読めば済みます。ここで書きたいのはその先です。現役の機械設計技術者として25年働いてきた立場から、この資格が実務で何をもたらすのかを、誇張せずに整理してみます。
技術士とは、21の技術部門をカバーする国家資格
技術士は、技術士法に基づく国家資格です。所管は文部科学省になります。
技術士法第2条では、科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項について、計画・研究・設計・分析・試験・評価またはこれらに関する指導の業務を行う者と定義されています。機械、電気電子、建設、化学、情報工学、原子力・放射線など、21の技術部門が設けられており、産業のほぼ全分野をカバーしています。
重要なのは、これが「名称独占資格」である点です。
医師や弁護士のような業務独占資格ではありません。技術士でなければ設計ができない、という性質のものではないのです。その代わり、技術士でない人が「技術士」またはこれに類似する名称を使うことは法律で禁じられており、違反すると30万円以下の罰金が科されます。
つまり、この資格が守っているのは業務ではなく名称そのものです。ここが、技術士という資格を理解するうえで最初の分かれ道になります。
「名称独占」に価値はあるのか
ここで多くの方が疑問を持ちます。業務独占でないなら、取っても意味がないのではないか、と。
検索すると「技術士 意味ない」という言葉が出てくるのも、この疑問が出発点です。率直に言えば、この疑問はもっともです。 資格を取った翌日から、できる仕事が突然増えるわけではありません。私自身、取得したその日に現場が変わったという経験はしていません。
では何が変わるのか。「証明」が手に入ります。
エンジニアの実力は、外からは見えません。10年設計をやってきた人と、20年やってきた人のどちらが優れているかは、経歴書からは判断できないのです。社内であれば周囲が分かってくれますが、社外の相手はあなたの仕事を見たことがありません。
技術士は、その見えない部分を第三者が保証してくれる仕組みです。高等の専門的応用能力を持つと国が認めた、という一行が経歴に加わります。
これが効いてくるのは、自分を知らない人と仕事をするときです。他社との協業、公的機関との折衝、独立や転職といった場面で、説明の手間が明確に減ります。逆に言えば、ずっと同じ職場で同じ人たちと働き続けるのであれば、効きにくい資格でもあります。
ここは正直にお伝えしておきます。万能の資格ではありません。
取得の過程そのものに意味がある
もう一つ、実際に受験してみないと分からない側面があります。
技術士第二次試験は、知識を問う試験ではありません。自分がやってきた業務を、それを知らない相手に伝わる形で言語化する試験です。筆記試験では答案として、口頭試験では受け答えとして、それが問われます。
エンジニアにとって、これは想像以上に難しい作業です。
設計の現場では、前提を共有した相手と話しています。「例のあの構造で」「いつもの手順で」が通じる世界です。ところが試験では、あなたの業務を一度も見たことがない相手に向けて説明しなければなりません。当たり前すぎて省略していたことを、すべて言葉にする必要があります。
この過程で、多くの方が気づきます。自分は何を判断してきたのか。なぜその設計にしたのか。他の選択肢はなかったのか。普段は考えずにやっていたことを、根拠から捉え直す作業になるのです。
資格そのものより、この過程のほうが実務に効いた。そう感じる技術士は少なくありません。
技術士になるまでの道のり
技術士になるまでの流れは、大きく3段階です。
① 技術士第一次試験に合格する(またはJABEE課程を修了する)
出発点はここです。基礎科目・適性科目・専門科目の3科目で、大学の理工系学部程度の知識が問われます。
文部科学大臣が指定したJABEE認定課程を修了している場合は、第一次試験が免除されます。自分が該当するかどうかは、卒業した学科の認定状況を必ず確認してください。該当するのに気づかず受験している方が実際にいます。
第一次試験に合格するか、JABEE課程を修了すると、技術士補となる資格を得ます。
② 実務経験を積む
第二次試験を受けるには、一定の実務経験が必要です。技術士補として登録して指導技術士のもとで経験を積むルート、職務上の監督者のもとで経験を積むルート、実務経験のみで要件を満たすルートなど、複数の経路が用意されています。
どのルートに該当するかで必要年数が変わるため、ここは必ず日本技術士会の最新情報でご確認ください。
③ 技術士第二次試験に合格する
筆記試験(7月)と口頭試験(12月〜翌1月)の2段階です。筆記試験を通過した人だけが口頭試験に進みます。
多くの方が壁を感じるのはこの第二次試験です。そして冒頭に書いたとおり、ここでつまずく理由は知識不足ではないことがほとんどです。実務経験も専門知識も十分にある方が、「伝わる形で書く」という一点で足踏みしています。
学習の全体像については技術士試験の全体像と効率的な学習ステップで詳しく整理しています。
PMEでは、この「伝わる形になっているか」を第三者の目で確認する論文添削を1枚3,000円から行っています。他社の講座を受講中の方のセカンドオピニオンとしてのご利用も歓迎しています。
「自分にはまだ早い」と思っている方へ
最後に、受験を先送りにしている方に向けて書きます。
技術士を目指す方から最も多く聞くのが、「もう少し経験を積んでから」という言葉です。今の自分では実力が足りない。もっと大きな業務を担当してから。そう考えて、毎年先送りになっている。
けれど、「十分な経験」に到達したと感じる日は、おそらく来ません。
技術士試験で問われるのは、担当した業務の規模ではありません。その業務で何を課題と捉え、どう判断したかです。小さな案件でも、自分の頭で考えて決めたことがあれば、それは立派な素材になります。逆に、大きなプロジェクトに関わっていても、言われたとおりに手を動かしただけであれば書くことがありません。
判断材料が足りないと感じるなら、まず一度、自分の業務を書き出してみてください。書けるかどうかは、書いてみないと分かりません。
このテーマについては技術士試験、今の自分では「まだ早い」と思っていませんか?でも掘り下げています。
まとめ
- 技術士は21の技術部門をカバーする名称独占の国家資格であり、業務独占資格ではない
- 価値は「何ができるか」ではなく、専門的応用能力を第三者が保証してくれることにある。自分を知らない相手と仕事をする場面ほど効く
- 資格そのもの以上に、自分の業務を言語化する取得の過程が実務に効いてくる
制度の理解はここまでで十分です。次に進むなら、自分がどのルートで受験資格を満たすのかを確認するところからになります。
一人で抱え込まず、第三者の視点を
自分の業務を「伝わる形」にできているかどうかは、自分ひとりではどうしても判断できません。当たり前すぎて省略してしまっている部分は、外から見た人にしか見えないからです。
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